佐古賢一氏、シーホース三河の取締役に就任|“ミスター・バスケットボール”の新たな挑戦

株主総会で新体制を承認、レジェンドが経営陣入り

Bリーグ・B1に所属するシーホース三河は、2025年6月26日に実施された定時株主総会において、クラブのチームディレクターを務める佐古賢一氏が取締役に就任したことを正式発表した。フロントオフィスの中心人物として、新たに経営層へと加わる形となったこの人事は、日本バスケットボール界にとっても象徴的な出来事だ。

なお、佐古氏はこれまでどおりチームディレクターとしての職務も継続する。トップチームおよび育成部門を含むアカデミー全体の統括責任者として、引き続きクラブの競技力向上に直接関与していくことになる。

“ミスター・バスケットボール”と呼ばれた選手時代

佐古賢一氏は1969年生まれ。現役時代には日本の男子バスケットボール界を牽引する司令塔として知られ、1990年代から2000年代にかけて、日本代表の正ポイントガードとして活躍した。国内リーグではいすゞ自動車ギガキャッツ、そしてアイシンシーホース(現・シーホース三河)に所属。常に勝利を求める姿勢、卓越したゲームメイク、試合を読む力により、ファン・関係者から「ミスター・バスケットボール」と称された。

彼の偉業を象徴する出来事のひとつが、2020年にアジア人として極めて稀なFIBA殿堂入りを果たしたことだ。日本のバスケットボールが国際的に評価される契機となり、指導者としてのキャリアにも大きな期待が寄せられるようになった。

指導者としての10年──現場で磨かれた哲学

引退後、佐古氏は2014年にBリーグの前身であるNBLの広島ドラゴンフライズでヘッドコーチとして指導者人生をスタート。その後、日本代表のアシスタントコーチ、さらにはレバンガ北海道でのヘッドコーチ就任など、様々な立場で現場を支えてきた。

戦術理解の深さに加え、人材育成への情熱、クラブ文化の浸透を重視するスタイルは多くの選手に影響を与えてきた。また、ただ勝利を目指すだけではなく、地域密着・人間形成・次世代強化といったクラブの社会的使命を理解している指導者でもある。

2023年にシニアプロデューサーとして三河に復帰

2023年、古巣・シーホース三河に戻った佐古氏は、まずは「シニアプロデューサー」という役職に就任。人材発掘、トレーニング環境の整備、地域PR施策、スポンサー連携など、競技外の分野にも深く関わるようになった。クラブのビジョン設計や運営の仕組みづくりにも携わることで、経営側の視点を養ったといえる。

2024年にはチームディレクターへ移行、トップ強化を指揮

翌年2024年には、チームディレクターとしての職務に移行し、トップチームとアカデミーの強化を本格的に統括。選手の育成やスカウティングだけでなく、コーチ陣の育成支援やチームカルチャーの構築にも取り組んでいる。現場での経験値と、クラブ全体を見るマクロ視点の両方を持つ希有な存在として、シーホース三河の未来を託されている。

経営陣としての期待──クラブの持続可能性を見据えて

今回の取締役就任により、佐古氏は単なる現場責任者ではなく、クラブの経営戦略にも深く関与する立場となった。日本のプロスポーツクラブにおいて、元選手が経営に携わるケースは増えつつあるが、競技面・育成・経営のすべてに携わる人材は極めて貴重だ。

今後は、クラブの財務健全化、地域社会との共創、ファンベースの拡大、スポンサーシップ戦略の再設計といったテーマにも取り組むことが期待されている。現場と経営の「翻訳者」としての役割が求められる中で、佐古氏の存在は三河の持続的発展の鍵を握ることになるだろう。

ファン・地域・未来の選手に向けての責任

「選手を育てるだけではなく、その選手が輝けるクラブ環境を整えるのも、私の仕事です」と、佐古氏はかつて語っていた。まさに今、その言葉を具現化するフェーズに入ったといえる。プレーヤーとして多くの称賛を集め、指導者として経験を重ね、今度は経営者としての挑戦が始まる。

トップチームの勝利も大切だが、それだけではない。アカデミーから世界へ羽ばたく選手を育てること、バスケットボールを通じて地域に活力を与えること、そしてスポーツの持つ社会的意義をより広く伝えていくこと。佐古賢一という人材が、そのすべてを担う時代が始まった。