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B3卒業から再出発へ──豊田合成スコーピオンズの挑戦と転機、実業団バスケの未来図

実業団の雄・豊田合成スコーピオンズとは何者か?

愛知県稲沢市・清須市を拠点に活動する「豊田合成スコーピオンズ」は、トヨタグループの一員である豊田合成株式会社を母体とする企業バスケットボールチームだ。1980年に創部され、当初は愛知県リーグ10部からのスタートだったが、地道な努力と実績を積み重ね、やがて日本リーグ(JBL2)、NBDL、B3リーグへと階段を駆け上がった。

2023-24シーズンまでB3リーグに所属していたが、2024年にはプロクラブ化を断念し、B3リーグから退会。2025年より社会人リーグ(SBL)の東海・北信越SB2リーグに新たな活躍の場を移した。この決断は、多くの実業団チームがプロ化へ移行する中で、企業としての在り方とスポーツの両立を再考する重要なターニングポイントでもある。

企業チームとしての苦悩と誇り

豊田合成スコーピオンズは、他のB3クラブと異なり、企業スポーツとしての一貫性を保ってきた数少ない存在だ。選手たちはバスケットボールの活動に加え、豊田合成の社員としての業務にも従事している。プロとの大きな違いはここにあるが、むしろそれこそが実業団バスケの本質ともいえる。

B3在籍中も、他クラブのような大型補強や派手な演出はなかったが、「泥臭くひた向きに戦う」というスローガンを掲げたプレースタイルは、多くのファンの共感を呼んできた。

歴史に裏打ちされた成長の軌跡

スコーピオンズの歩みは決して平坦ではなかった。1980年の創部から数年は県リーグを転戦。1990年には全日本実業団競技大会で初の全国出場を果たし、2005年には初優勝。そして同年開催された第1回全日本社会人選手権でも優勝を飾り、初代王者の称号を手に入れた。

その後はJBL2、NBDLを経て、2016年からB3リーグに参入。B3での最高成績は2018-19シーズンの2位(28勝8敗)。その後は勝率が低迷しつつも、苦境に耐えながらチームとしての地盤を築き続けてきた。

B3リーグ退会の背景と決断の理由

2023年11月、豊田合成スコーピオンズは公式に「プロクラブ化の断念とB3退会」を発表。この背景には、企業スポーツとしての理念と、プロ化による経済的・人的負担との乖離があった。トヨタグループとしての方針もあったが、決して“撤退”ではなく“再選択”の色が強い。

2025年からはSB2リーグ(SBL)で再スタート。これは、B3を去った実業団チームが再び脚光を浴びる可能性を示す象徴的な出来事でもある。

アーネスト・ロスなどのロースターと選手たちの現在地

2023-24シーズンのロースターには、NCAA出身のアーネスト・ロスやアンドリュー・ファーガソンといった外国籍選手に加え、筑波大出身の波多智也、日本体育大出身の土居光など、国内トップクラスの大学出身者が名を連ねていた。

若手とベテランがバランスよく配置された編成で、キャプテンには経験豊富な選手を据え、安定したチームマネジメントが行われていた点も特徴的だ。指揮官は元日本代表選手の天日謙作氏。彼の豊富な知見がチームに落ち着きをもたらしていた。

豊田合成記念体育館と地域との関係性


豊田合成スコーピオンズは「豊田合成記念体育館」をホームとしつつも、甚目寺(あま市)や春日井、小牧、下呂など、愛知県内外の複数会場でホームゲームを実施してきた。これは、地域密着型の企業チームとして、より多くの地域住民にバスケを届けたいという意志の表れである。

さらにマスコットキャラクター「スコッピー」は、蠍の帽子をかぶった犬というユニークなデザインで、ファンからも親しまれている存在。地域イベントにも積極的に参加しており、単なるバスケットボールチーム以上の役割を果たしてきた。

他実業団チームの潮流と比較

2021-22シーズンで活動休止した「アイシン アレイオンズ」も、同じトヨタグループであったが、豊田合成のように長くB3に留まることはできなかった。近年、企業チームの多くがプロ化を目指す中で、逆にSBLや地方リーグへ戻る動きも静かに広がっている。

こうした流れの中で、スコーピオンズの選択は「実業団スポーツの新しいロールモデル」として注目されている。

今後の展望と挑戦

SB2リーグでの再始動を皮切りに、豊田合成スコーピオンズは“原点回帰”ともいえる新たなフェーズに入った。ここから再び全国大会への出場や、社会人王者としての返り咲きを目指すことになる。

また、長期的には実業団×地域共創のモデルとして、地域スポーツ振興や企業ブランディングへの活用も想定される。将来的に3×3チームの創設やバスケ以外の多角的スポーツ活動への拡張も視野に入れているという情報もある。

まとめ:実業団バスケの未来はスコーピオンズが握る

B3から去り、SBLへと舵を切った豊田合成スコーピオンズ。その決断は一見後退のように見えるかもしれない。しかし、本質的には「何のためにスポーツを続けるのか」という原点に立ち返った、勇気ある選択だったといえるだろう。

企業スポーツとしての在り方を問い直しながら、地域と共に歩む豊田合成スコーピオンズ。今後の活躍は、実業団バスケ全体の未来を照らす灯台のような存在となるかもしれない。