Wizが挑むスポーツ経営の未来──バスケとバレー2競技のオーナー戦略とは

異なる競技の2チーム運営に挑む理由とは?


「チームを地域のセンターピンにしたい」──株式会社Wizの代表・山﨑俊氏は、そう語る。2024年6月、女子プロバレーボールチーム・アルテミス北海道(Vリーグ)を傘下に迎えたWizは、すでに男子プロバスケットボール・鹿児島レブナイズ(B2)を保有しており、2競技のクラブオーナー企業となった。

「地域におけるプロスポーツチームの存在はとても大きい」と山﨑氏。「鹿児島ならレブナイズだね」というように、地域の象徴=“センターピン”になれるコンテンツだと考えているという。特に屋内競技は天候や季節に左右されず、会場までのアクセスも良い。だからこそ、老若男女が集える空間づくりには適していると語った。

アルテミス北海道が担う“女性活躍の象徴”という役割


「北海道の女子プロスポーツをけん引する存在になってほしい」。Wizがアルテミス北海道に託すビジョンだ。男子プロチームが多く存在する北海道において、女子チームの存在は希少であり、地域の中で「女子ならアルテミス」という空気を作りたいという。

Wiz社内も女性比率が高く、従業員の54%が女性、管理職も46%が女性という構成。「今のWizがあるのは女性の皆さんのおかげ。女性の活躍を後押しする象徴として、アルテミスを地域に根付かせていきたい」と山﨑氏は力を込めた。

SVリーグ昇格より大切な“熱量”の創出

「まずは会場を満員にすること。それが第一歩」。北ガスアリーナ札幌46(2500人収容)を主戦場に、1年目は無料招待も活用しながら満員を目指す。競合はBリーグ、Jリーグ、プロ野球と多いが、その中でも「選ばれるエンタメ」となることが求められる。

SVリーグ昇格に関しては、今すぐではなく「どこかの時間軸で目指すべき」と言及。「地域に熱を生み出すことが優先。順位や昇格だけを追うのではなく、盛り上げるためにどんなポジションでいるべきか」を重視している。

「みんなに担いでもらえるアルテミス」に

「地域のシンボルではなく、女性活躍のセンターピンに」。北海道全体の象徴になるのはおこがましいという謙虚な姿勢を持ちつつ、「担がれる存在になることが地域活性化につながる」と語る山﨑氏。

「スポーツチームは神輿のような存在で、地域のみんなで担ぎ上げていける。その象徴にアルテミスがなっていけたら」と展望を語った。

鹿児島レブナイズが教えてくれた“チームの力”


Wizが最初にオーナーとなったのは鹿児島レブナイズ。元々スポンサーをしていたレバンガ北海道からの縁で、鹿児島のクラブを紹介されたという。

「B1昇格条件のひとつでもある1試合平均2400人の集客」を2年連続でクリア。特に「KAGOSHIMA SHOWTIME」をスローガンに掲げた昨季は、観客に“観てもらえればファンになる”という確かな実感を得たという。

チームの挑戦=地域の活性化

「優勝を目指す意味は、地域を盛り上げるため」と山﨑氏は断言する。アルテミスもレブナイズも、単なる勝利のために戦うのではなく、あくまで地域の熱量を高めるための手段として「勝利」を追求している。

「勝てなかったとしても、それは挑戦した結果。それを地域のエンタメに昇華できていれば成功だ」と語る。

スポーツチーム経営は“地域活性化ビジネス”

「私はスポーツビジネスをしているのではなく、地域活性化ビジネスをしている感覚に近い」。スポーツチームは、企業が“応援したくなる存在”を持つことで、会社の成長や社員のやりがいにも直結すると山﨑氏は捉えている。

バスケットもバレーも、チームという存在を通して「信じる力」「挑戦する意味」を体現し、会社全体にポジティブな空気をもたらす。「2チームの運営を通じて、地域と会社の両方が挑戦し続ける存在でありたい」と語った。

クラブ運営が人材育成の場にもなる

「スポーツチームの現場は、若手の成長機会でもある」と山﨑氏。Wizではレブナイズやアルテミスに若手社員が関わることも多く、広報やスポンサー対応、イベント運営など、リアルな現場で“実戦経験”を積む機会が得られているという。

こうした経験は、WizのコアビジネスであるIT・営業分野でも応用可能で、「人との関わり」「信頼を得る力」「現場対応力」を鍛える場にもなっている。

地域の教育・行政とも連携し、“まちづくり”へ

「クラブ運営は地域全体を巻き込む“まちづくり”の一部」。山﨑氏は、クラブを通じて地域の学校や行政、地元企業とも連携し、未来の担い手づくりにも注力していきたいと語る。

実際、鹿児島では地元の小中学校と連携した「夢授業」や「キッズ観戦プロジェクト」も展開。アルテミスでも同様の教育連携を計画しており、スポーツの価値を広げる仕組みを構築中だという。

Wizが描く“地域と人が育つ”スポーツ経営の未来

「地域が育ち、人が育ち、企業も育つ」──Wizが描くスポーツ経営は、その三者の循環を前提としている。チームの勝敗だけに依存せず、地域と連携しながら、長期的に価値を生み出す体制づくりが進んでいる。

「スポーツは感情を動かす力がある。だからこそ、応援される存在になる必要があるし、応援されることで地域に根付く。その循環を作っていきたい」と山﨑氏は語った。